労使協定(労働者派遣法)の退職手当

 一般賃金のうち退職金(以下「一般退職金」とします。)については、以下の①②又は③から労使で選択するものとします。なお、一つの労使協定において、労働者の区分ごとに①から③までを選択することもできます。例えば、無期雇用労働者は①の退職手当制度の方法により、有期雇用労働者は②一般退職金に相当する額と「同等以上」の方法により比較する、などが考えられます。

 また、以下「通達」とするのは、令和5年8月29日付職発第0829第1号 令和6年度の「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律第30条の4第1項第2号イに定める「同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額」」等について です。

①退職手当制度で比較する場合

統計資料の選択

 事業所に退職手当制度がある場合は、通達の別添資料4に示された、資料の以下アからウを確認します。

 ア 退職手当制度がある企業の割合

 イ 退職手当の受給に必要な所要年数

 ウ 退職手当の支給月数及び退職手当の支給金額

 なお、別添資料4には、多数の統計資料が掲載されていますが、一番使いやすい資料として推奨するのが、モデル退職金(調査産業計)「令和4年中小企業の賃金・退職金事情(東京都)」のです。理由は、厚生労働省が示す労使協定イメージに使用されているからです。

一般退職金と同等以上を証明

 最終的に、自社の退職制度が、一般退職金を同等以上であるという証明をするため、労使協定に比較表を載せます。( 厚生労働省の労使協定イメージの22ページ参照。) 

 例えば、モデル退職金(調査産業計)「令和4年中小企業の賃金・退職金事情(東京都)」を利用する場合、以下の順番で進めます。

1. 退職手当制度がある企業の割合(71.5%)を各月数に乗じる

 なお、端数処理については公式の指示は出ていませんが、厚生労働省の労使協定イメージによると、少数第2位を四捨五入しています。

2. 自社の退職制度との比較表を作成し、同等以上になっていることを確認する

 ここで、比較した結果、同等以上にならない部分があれば、以下の②又は③の方法によらなければならなくなります。

②一般の労働者の退職金に相当する額と「同等以上」を確保する場合

 一般基本給・賞与等(※1)に5%(※2)を乗じた額を一般退職金とします。これは、前払い退職金のイメージですが、例えば「勤続3年以上の者に支給する」ことは認められませんし、学生アルバイトや3か月の短期間の雇用を希望している者であっても、労使協定対象者であれば一般退職金の額を含めます。

※1 一般労働者の平均賃金額に地域指数を乗じた値

※2 「令和3年就労条件総合調査」の「退職給付等の費用」の「現金給与額」(令和3年賃金構造基本統計調査により超過勤務手当分を除いた額)に占める割合。よって、年度により調査内容が更新されると、変更される場合がある。

③中小企業退職金共済制度等に加入する場合

 これは、上記②と違い、一般基本給・賞与等の5%に相当する額を、中小企業退職金共済制度等の事業主掛金として負担していれば、一般退職金と同等以上と認められるケースです。

 その他、以下について認められます。また、併用することも可能です。

  • 確定給付企業年金等
  • 退職一時金を支給するために、派遣元事業主が「直近事業年度において積み立てている額」等を時給換算した額
  • 商工会議所の特定退職金共済制度
  • 中小事業主掛金納付制度(iDeCo+)の企業の上乗せ拠出部分    など

まとめ

 このように、退職金は三つの方法のいずれかで比較することとなります。筆者が労働局で労使協定の指導監督を行った令和2年度と3年度においては、労働者派遣事業を本業としない、既存の退職制度がある事業所の方は、統計の基準を完全に満たさないケースが多く、非常に苦労されていました。

 また、②と③の方法による場合、最終的にどのように基本給と賞与、地域指数、5%の退職金相当額を計算していくのかについて、また別の記事で解説する予定です。

《参考資料》

令和6年度局長通達

労使協定方式に関するQ&A(集約版)[615KB](令和5年1月31日公表)

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