労使協定(労働者派遣法)の対象労働者
労働者派遣法第30条の4第1項に規定する労使協定(以下「労使協定」とします。)について、厚生労働省が示した協定イメージの第1条(対象となる派遣労働者の範囲)のポイントを解説します。
対象派遣労働者の範囲を定める
労働者派遣事業関係業務取扱要領において、対象労働者の範囲について、以下のように労使協定に明記するよう記載されています。
「全ての派遣労働者を一律に労使協定の対象とするのではなく、派遣労働者の職種、雇用期間の有無等の特性に応じて、労使協定の対象とするか否かを判断すべきものであることから、労使協定の対象となる派遣労働者の範囲を労使協定に定めることとしたもの。」
そのため、対象範囲の決定は基本的に労使に委ねられ、例えば「本協定は、派遣先でソフトウェア作成の業務に従事する従業員(以下「対象従業員」という。)に適用する」などと明記するということになります。
しかしながら、令和2年度の法改正当初から派遣労働者の待遇決定方式は、9割強が「労使協定方式」が採用されています。実際、筆者が労働局の指導監督時代(令和2年度・3年度)に確認した労使協定のほとんどは、「本協定は、雇用する全ての派遣労働者に適用する。」などといった記載になっていました。
均等・均衡方式を併用する場合
労使協定方式は、派遣労働者の長期的なキャリア形成に配慮した雇用管理を行うことができるようにすることを目的としたものであるため、例えば「派遣先の希望により」や「賃金水準の高い派遣先の場合」といった理由で均等・均衡方式とすることは認められません。待遇決定方式を派遣労働者に併用するには、職種や労働契約期間(有期・無期)などといった客観的な基準により区分しなければなりません。また、当然のことながら、待遇を引き下げることを目的として、派遣先ごとに待遇決定方式を変更することも、法の趣旨に反するものであり、認められません。
一方、待遇決定方式を変更しなければ派遣労働者が希望する就業機会を提供できない場合であって、当該派遣労働者から合意を得た場合等のやむを得ないと認められる事情がある場合などは、この限りでないとされています。
なお、紹介予定派遣とそれ以外の派遣労働者との間で、待遇決定方式を分けることは、合理的な理由があれば、否定されるものではないとされています。(厚生労働省公表「労使協定方式に関するQ&A(集約版)問1-11参照 )
まとめ
派遣労働者の待遇決定方式について、労使協定方式の意義は、本来、計画的な教育訓練や職務経験による人材育成を経て、段階的に待遇を改善するなど、派遣労働者の長期的なキャリア形成に配慮した雇用管理を行うことができるようにしたものです。
ただ、実際は、派遣先と労働者派遣契約を締結する際、労使協定方式に限定することにより、派遣先は比較対象労働者の選定が不要となり、負担の軽減が図れるという利点から、結果的に9割強が労使協定方式を採用しているものと考えます。
そのため、労使協定の対象派遣労働者を「雇用する全ての派遣労働者に適用する。」とするのも理解できるところです。
《参考資料》
厚生労働省HP PDF版[683KB] Word版[219KB] ※令和5年1月31日公表版
労使協定方式に関するQ&A(集約版)[615KB](令和5年1月31日公表)
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