令和6年度版労使協定(派遣法第30条の4第1項)のポイント
令和6年度の労使協定締結に向けて、前年度との変更点や留意すべき基本事項を説明します。
令和6年度で5年目に突入
働き方改革関連の法改正のため、派遣業界は令和2年度からいち早く同一労働同一賃金が義務付けられ、令和6年度ではや5年目ということになります。
派遣労働者の待遇を決定する方法として、派遣先の通常の労働者との均等・均衡待遇を図る「派遣先均等・均衡方式」と、一定の要件を満たす労使協定による「労使協定方式」の二つが定められましたが、蓋を開けてみると「労使協定方式」が9割超を占めています。
筆者は開始年度の令和2年度と3年度に広島労働局の派遣担当として対応した記憶では、いわゆる「人材サービス会社」ではない正社員を派遣している事業所の方にとって、労使協定方式は理解しがたい制度でした。「正社員なのになぜ一般賃金や退職金と比較しなければならないのか?」
労働局時代も退職した今も、筆者は全く同感ですが、法を守らなければなりません。
労使協定の有効期間
労使協定の有効期間は、厚生労働省は「2年以内」を推奨していますが、おススメは4月から3月までの単年契約です。※推奨というより、2年を超えていると指導されます。
おススメの理由は、厚生労働省が毎年8月頃に出す通達の内容に基づき、一般賃金を決めるのですが、通勤手当の単価や退職金の%が変更になる可能性があるうえ、職種ごとの賃金資料は必ず改定されます。
そのため、例えば令和5年4月から令和7年3月の労使協定を締結していても、令和6年4月の段階で賃金比較の資料を作成した「確認書」なるものを労使で作成しなければならず、労力はあまり変わりません。
令和6年度通達の内容
令和5年8月29日に令和6年度の「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律第30条の4第1項第2号イに定める「同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額」」等についてという長いタイトルの通達が出され、それが令和6年度の労使協定に定めるべき基準を示していますが、簡単なポイントは、
- 通勤手当単価は72円(令和5年度は71円)にアップ
- 一般退職金5%は変更なし
といったところでしょうか。
あとは、別添資料1と2で、自社の雇用する派遣労働者の職種ごとの賃金が上がったか、別添資料3で都道府県別またはハローワーク別の地域指数が上がったかを確認する必要があります。
また、退職金制度で比較する事業所の場合、最も利用しやすい東京都の令和4年中小企業の賃金・退職金事情によると、退職手当制度がある企業の割合が71.5%(前年は65.9%)に上がっているため、基準に達しないケースが出るかもしれません。
ただ、退職金制度の比較で基準に達しなくても、基本給・賞与等と通勤手当の合算が以下より上回っている場合は、わざわざ退職金制度で比較する必要はありません。
「一般基本給・賞与等」+「一般通勤手当」(72円)+「一般退職金」(5%を一般基本給・賞与等に乗じた額)
労使協定の締結プロセス
労使協定案を作成すると、労働組合または過半数労働者の代表と協議のうえ、締結します。
過半数労働者の代表の場合、その選出方法も重要です。
まず、管理的立場の労働者は代表になれませんし、選出方法も立候補などの民主的な方法でなければならず、全労働者の「過半数」の代表であることが必要であるため、例えば派遣労働者だけの投票や、投票時に「返信がなかったら賛成とみなす」という扱いも認められません。
また、締結した後は、全労働者に書面やメール、イントラネットでの常時公開などの方法で周知しなければなりません。
これらについても、適正になされていない場合、労働局の指導の対象になる場合があります。
まとめ
以上のように締結した労使協定は、毎年6月の労働者派遣事業報告時に添付して提出しなければなりません。内容が通達の基準に達していない場合は、労働局による是正や指導の対象になる場合があります。
労使協定に関し、内容の確認やご相談などございましたら、全国対応いたしますので、当事務所までお気軽にお問合せください。
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